クラウドソーシング翻訳

いくつかのNGOや企業(Wikipedia、Twitter、Mozilla、Global Voices、Google、Meta、TED、Translator without Bordersなど)は、クラウドソーシング翻訳コミュニティを運営して、多言語に翻訳しています。クラウドソーシング翻訳は何か、翻訳コミュニティを成功させるにはについて、説明します。

クラウドソーシング翻訳とは​

「クラウド」と「アウトソーシング」を組み合わせた複合語であるクラウドソーシングは、多人数の知識、スキル、時間、アイデアなどのリソースを利用するプロセスのことです。クラウドソーシング翻訳は、団体や個人が参加者に翻訳をお願いします。

クラウドソーシング翻訳には誤解がいくつかあります。

誤解1: クラウドソーシング翻訳は無料か通常の翻訳より安い

クラウドソーシング翻訳では、プロの翻訳者を雇う必要がないから安いまたは無料で翻訳できる方法だといわれることがありますが、正確ではありません。確かに、クラウドソーシングの参加者である翻訳者への支払いは通常ありません。また、海外のプロの翻訳者を雇う場合、労働法およびビザを支援するために作業が必要ですが、クラウドソーシング翻訳ではその作業と費用が必要ありません。ただし、クラウドソーシング翻訳を管理するには、翻訳管理プラットフォームと、ツールと、設定と管理するエンジニアと、コミュニティ管理者を雇うためにお金がかかります。この合計はプロの翻訳者を雇うのと大体同じくらいになることがあります。

誤解2: クラウドソーシング翻訳の品質は低い

以前Meta(元Facebook)が、クラウドソーシング翻訳とプロ翻訳の品質を比べました。クラウドソーシング翻訳コミュニティのメンバーが、いい翻訳の方に投票した結果、45%が翻訳コミュニティの翻訳を支持し、55%がプロの翻訳者の翻訳を支持しました。クラウドソーシング翻訳がプロ翻訳と同様の品質を提供できることを明確に表しています。

なぜプロの翻訳者がまだ雇われているのでしょうか? 1つの例は、プロ翻訳者が必要なコンテンツのケースです。価格や機能などを含む機密情報や内部情報に関するコンテンツがそのケースにあたります。また、医療および法的な文書は特に高いレベルの精度が必要なのでプロ翻訳が必須になります。

クラウドソーシング翻訳に適したコンテンツ​

Lingotekは、コンテンツバリューインデックス (CVI)で、翻訳コンテンツタイプをプロフェッショナル、コミュニティ、機械の3つのタイプに分類しました。Lingotekの図が示すように、必要とされる品質レベルはコンテンツタイプによって異なります。

プロフェッショナル
機密情報(機能、利点、価格など)が含まれる印刷物、書籍、製品やサービス情報には、プロ翻訳者による高品質の翻訳が必要です。

コミュニティ
Wiki、ナレッジベース、およびゲームの字幕には、適度な品質の翻訳が必要とされます。

機械
コメント、ブログ投稿、ユーザーインターフェース、ツイートにはリアルタイムの翻訳が必要ですが、高品質の翻訳でなくても問題ありません。

クラウドソーシング翻訳は、コミュニティと機械コンテンツタイプに有効の可能性があります。

クラウドソーシング翻訳を開始​

すべての団体と個人にあう特定の開始方法はありません。色々あるコンテンツや組織の種類や優先順位に合わせて、開始方法を各組織ごとにカスタマイズします。
なお、クラウドソーシング翻訳コミュニティを成功させるための2つの主要な要素は、翻訳量と品質です。

量​

クラウドソーシング翻訳で作成される翻訳の量は、参加者のモチベーションの高さに比例します。参加者は、プロジェクトに参加したいという気持ちから参加したりします。また、経験を積みたいやスキルを得たいという気持ちから参加するケースもあります。”Change Anything: The New Science of Personal Success”の著者であるケリー・パターソン氏は、クラウドソーシングに参加する動機を、個人的な動機、社会的な動機、構造的な動機の3つに分けて説明しています。個人的な動機は、自分のスキルを向上させたい、他の人を助けたいというものです。社会的な動機は、参加者が家族や友人によって影響されてクラウドソーシング翻訳コミュニティに参加するなどのケースです。構造的な動機は、履歴書に書ける専門的な経験を得ることを目的に参加するケースなどです。クラウドソーシングコミュニティ管理者は、参加者をやる気にさせるために工夫する必要があります。

クラウドソーシング翻訳コミュニティでは、参加者が費やす時間やスキルレベルなどを管理します。シンプルでシームレスなプロセスを設定すると、参加者が貢献する時間が短縮されます。また、使いやすい翻訳システムやユーザーインターフェイスを使うと、使う参加者のストレス軽減に役立ちます。このため、サポートシステムとツールは、参加者を支援し、翻訳量を増やすための重要な要素の一つです。またリワードシステムなどの要素は、参加者のモチベーションを維持するのに有効です。

成功したクラウドソーシング翻訳コミュニティの多くは、翻訳者、翻訳コンテンツ、翻訳支援ツール(CAT)が含まれていてステータスなどを管理する翻訳プラットフォームを使用しています。CATには、機械翻訳、用語集、翻訳メモリなどが含まれます。クラウドソーシング用の翻訳ツールを開発している Crowdin は、クラウドベースの翻訳管理システムを提供しており、コミュニティ管理者が機械翻訳、用語集、およびレビュー用の投票プロセスを設定できます。サポートシステムの例は、メンターシステム、Wiki、FAQページ、およびスタイルガイドなどがあります。多くの企業は、ゲーム化して、ポイントシステムやリーダーボードなどを導入しています。楽しさを付与することで、楽しくやりがいを感じる仕組みです。また、一部の翻訳コミュニティは、コミュニティバッヂを用意して、参加者がスキルや参加の証として、SNSに投稿できるようにしています。

品質​

求められる品質の高さは、コンテンツや優先度や目的によります。優先する要件は、翻訳スピードや品質や翻訳量などがあります。優先度に沿って、コミュニティ管理者は品質の高さを決ます。 次に、翻訳ツールとワークフローを選択します。高品質の翻訳を作成する場合、主に4つの要素があります。

以下は各要素の具体例です。コミュニティの優先順位に基づいて、カスタマイズします。

自動化

  • 品質保証 (QA)チェック 
  • お知らせ(メールなど)

リソース

  • 機械翻訳
  • スタイルガイド
  • 翻訳メモリ
  • 用語集
  • チュートリアル
  • 翻訳例
  • Wiki

スキル

  • スキルレベル確認
    • 言語
    • 専門知識
    • トライアル

レビュー

  • 投票による品質確認
  • プロフェッショナルによるレビュー
  • 参加者によるレビュー

メリットの多いクラウドソーシングですが、成功させるには開始する前に計画と投資が必要です。コミュニティが適切なワークフローとツールで管理されている場合、クラウドソーシング翻訳は管理側と参加側の両方にとって恩恵があります。

参考文書

Morris, Mike, “DEBUNKED: THE TOP 8 MYTHS ABOUT CROWDSOURCING”, 2017, https://www.topcoder.com/blog/8-myths-about-crowdsourcing/
transifex, “Getting Started with Crowdsourcing”, 2016, https://www.transifex.com/blog/2016/crowdsourcing-101/
Thicke, Lori, “Expanding reach through crowdsourcing”, 2013, https://multilingual.com/articles/enterprise-innovators-expanding-reach-through-crowdsourcing/
Lingotek, “Machine Translation”, 2016, https://lingotek.com/images/pdf/Lingotek-Translation_Management_System_Product_Brief_08_13_14.pdf
Patterson, Kerry, 2012, “Change Anything: The New Science of Personal Success”

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